2025.3.28 台日科技未来フォーラム講演 

次世代通信技術の研究開発方向と応用シーン

KDDI創立者 千本 倖生氏  
公開日:2025年4月10日

皆さんこんにちは、千本です。

 だいたい私は月に2、3回は海外出張に行きます。最近は世界最大のモバイルのカンファレンス、MWC(モバイル・ワールド・コングレス)が行われたスペインのバルセロナに行ってきました。MWCは20年くらい続いており、大体10万人くらい集まります。

毎年、ハイテクのカンファレンスは世界に2つあって、1つはアメリカのCES。それが1月にあって3月はモバイルに関するカンファレンス、MWCがスペインであります。どっちも10万人くらい集まります。日本のNTTとかKDDIとかソフトバンクなど、世界中の社長らが集まる。モビリティ、モバイルがどういう形で世界に展開するか、そこに行くと、各社が最新の技術をこぞって出すんですね。

私は一昨年、そのカンファレンスに行って、すごく驚いた。何を驚いたかと言ったら、一社のブースでも(手を大きく広げて)最低これくらいあるんですね。そこに中国のBYDがありました。BYDはもともと中国で安い携帯を売っていた。私はKDDIを創業したということもあって。携帯がどういうふうに変わっていくか、すごく関心があった。そのBYDがどんな新しい携帯を出すのか?と思ったら、最新のかっこいいEV(電気自動車)を出していたんです。携帯の会社がEVを出すのか?とショックを受けました。

そして、世界のEVでBYDがテスラを追い越しちゃった。たった2年で、携帯の会社がEVを作って、あのイーロン・マスクが開発したテスラを追い越しちゃう。世界のハイテク、特にAI、半導体の領域の速さはわずか1、2年で変わる。もちろん、その後ろには開発にすごい時間がかけているんですよ。だけど、2年で(携帯会社のBYDが)EV業界のトップになるような時代になってきた。ものすごい速いスピードで、世界は変わっているということを実感したんですよね。AI時代の非常に大きな特徴です。

 AI、半導体という領域において、今日来て下さった甘利先生という1人の政治家が日本にいなかったら、半導体の世界でもっとひどい状態になったと思います。

今、AI革命の時代のまっただ中に我々はいます。考えてみると、今から300年前に産業革命が起こって、日本、世界、全部含めて、エネルギーであらゆる産業を作る工業社会になった。工業社会の中で基本的に全てのコア、エレメントになったのは、石油だった。ですから、石油を支配する国が世界を支配する。アメリカはすごい石油生産国ですよね。イギリスは北海の石油、サウジアラビア、そういったところが世界を支配した。石油メーカーであればロイヤル・ダッシュ・シェルとかエクソンとか石油に関わる産業が、世界を基本的に支配してきた。

 でも、その大きな流れがここ数年、決定的に変わってきた。工業化社会からAI社会に変わってきた。AI社会の真っただ中で、皆さんの生活もこれからAIでコントロールされ、おそらくAIの技術は人間の頭脳を超える。これは時間の問題だと思います。もちろん、AIでできない領域っていっぱいまだあるけれども。このAI社会を決定的に支えているものは何か? 石油ではなく、最大の基本要素は半導体です。これからは半導体を制するのが、世界を制する。

 半導体の歴史は皆さんご承知だと思います。1990年ぐらいまでは日本が世界のトップで、NEC、東芝、富士通とかが世界を制覇していた。

 その日本が日米半導体交渉とかの経緯があって、アメリカに徹底的にやられて。日本の半導体産業は壊滅的な状況になった。現在では半導体企業のトップ10を見ても、日本は全くない。代わって後ろにのし上がってきたのはアメリカで。インテルとかTIとかが半導体の覇権を握ったわけです。

 その後、アメリカに代わって世界を制覇したのが韓国です。サムソン創業者の李健熙(イ・ゴンヒ)さんは私の同い年ですけれども、彼が日本に学びに来て、それで作ったのがサムソン・エレクトロニクスで、世界最大の半導体メーカーになった。けれども、サムソンがここ数年、少し落ちてきた。それに代わったのが、皆さんご承知の台湾のTSMCですよね。

 TSMCというのは、たった一人の人が作った。ご承知の通り、モーリス・チャン(張忠謀)という人です。

 日本の半導体は2000年まではトップであって、日本が絶対、世界でトップであり続けると思っていた。モーリス・チャンはもともと(米国の)TIにいたんですけども、テキサスから台湾に戻って、TSMCをゼロから作った。リスクを取って、巨大な投資をしたんです。

その時に投資は富士通もNECも何もやらなかった。将来に不安があるのに、投資できるかと。その間にTSMCが世界のトップの半導体会社になった。

 台湾はそういう意味で、これから世界をコントロールするリーディング・カントリーになるんですよね。台湾という国は、ちょっと前までは日本人にとっていい国だった。いい友達だった。だけれども、日本人の多くは、台湾というのは中国に海峡を挟んでいつも脅かされ、非常に不安定な国というか、エリアと見ていた。台湾は国連で国として認められてないですよね。仲がいいけれども国としてはどうかなと思っていたんだけれども、ここ数年、台湾の存在は大事になってきた。先ほど言ったように、これからの世界は半導体によって支配される。これからの20年、30年を考えると、台湾という国が世界の中で最も大事な、日本にとって最も大事な戦略的な国家になってきた。

 台湾という国は、もともと日本にとって非常にフレンドリーな国です。私は台湾でAI半導体の最大の大学で教授をやっているものですから、よく来ます。台湾の人たちは日本に対して非常にフレンドリーですよね。台湾にとっておそらく、日本は最大の友好国だというふうに、私は感じています。

 TSMCは今も最高のものを開発しています。同時に、その半導体産業を支える測定機だとか製造機というのは日本にあるんですよね。東京エレクトロンとかが、台湾の半導体産業を支えているわけです。

 そういう意味で、日本は台湾に必要なパートナーです。まず、日本と台湾は近いですよね。福岡からわずか2時間ぐらいです。福岡から札幌に行くより、台湾に行く方が近い。それから、もう一つ大事なことは、やっぱり、どちらも民主主義国家であるということです。今、習近平主席の中国があり、プーチンのロシアという国がある。非常に短期的には、すごく効率のいい経営をしていると思うけれども、100年後の世界がどうなるか考えたら。独裁国家が歴史で勝ったことはないんですよね。だから、民主主義国家というのは効率が悪いかもしれないけれども、やっぱり民主主義国家でハイテク産業をきっちり開発していく。そういう国々がいずれ勝つんです。ですから、これから100年をにらんで世界を引っ張っていく国って、やっぱり台湾であり、日本であり、それからアメリカであり、おそらく韓国だろう。

と思いますよね。この4つの国に共通しているのは、ハイテクに対してすごい関心がある。人々がすごく熱心だ。それから、かつ、民主主義国家である。共通しているわけですよ。そういう意味では、私が個人的な見方で、この4つの国が世界を引っ張っていくだろう。

私はKDDIとか全部卒業して、今は京都大学の大学院で教えています。台湾ではAIや半導体に関してダントツの大学、NYCU(国立陽明交通大学)で講義をしています。日本の学生、台湾の学生たちに「台湾の重要性をもっと認識して」と言っています。台湾の学生には「台湾というのは将来を握る重要な国の一つなんだ。もっと自信持ちなさい」と。私の観測では絶対、習近平主席が台湾を襲うことはない。習近平さんというのは、独裁政権に戻ろうとしていますけれども、そんなに馬鹿じゃないと思うんですよね(会場笑い)。やっぱり、大きなグレーター・チャイナとしての台湾という位置づけをちゃんと見ているはずで。台湾が世界の宝を持っているんですよ。最高の宝を持っているんですよ。その宝を持って攻撃することによって、グレーター・チャイナを壊すということを、習近平さんは絶対考えないと僕は思います。

 私は毎月2、3回海外に行って、アメリカやヨーロッパ、アフリカ、アジアに行ったりして、世界のトップにも会います。例えばNVIDIAの創業者は私の友人なんで議論するんですが、そういう時に台湾の重要性をみんなに説いてまわっています。だから、僕は台湾のNYCUの大学院生たちに「皆さんは素晴らしい国の素晴らしい時代に生まれてきたんだ。 この台湾にもっと誇りを持ちなさい。台湾自身をもっと信頼しなさい。台湾の将来というのは、皆さん方が握っているんだ」と言っています。

これからの100年を握る国、リーディング・カントリーンとしての台湾。ずっと世界を見てきた経営トップの人間がそう言ってるんですから、台湾の皆さん方、ぜひとも、小さな雑論なんかには惑わされずに、20年先、30年先、将来に対して果敢に挑んでもらいたいと思います。

 台湾は素晴らしい。私は台湾大好き。台湾の成長をすごく見守っている。でも、ちょっと気になっていることがある。TSMCによく行ってこの頃感じるのは、皆さんTSMCに入りたがっている。若い人たちもTSMCに入りたがっている。その学生の態度は、かってのモーリス・チャンとは全然違うんですよ。30年前の日本と同じで、リスク取らない、いい会社に入りたい。給料3倍もらいたいという考え。そうなると、日本が30年前に犯した失敗に今、台湾は直面していると思います。これから来る10年、20年、30年、50年の未来というのは、待っていても決して新しい未来は来ません。未来というのは、我々がリスクを取って、新しい局面を作り出すことによって、来るんです。是非とも、台湾の若い人たち、ここにいる皆さんたち、日本と一緒になって、アメリカと一緒になって。是非とも、50年、100年先を見て、リスクを取って、今やるべきことを続けてださい。必ず新しい世界が、皆さんの手で出来上がることになることを確信しています。

どうもありがとうございました。