終戦80周年 賴清德が台湾と中国の敵対関係を明確に
今年は第二次世界大戦の終戦から80周年にあたります。しかし、かつて日本の植民地であった台湾の主権帰属問題は、未解決のままです。
報道によると、中国は台湾の親中派政党と共に「台湾光復(復帰)80周年」を祝う大規模なイベントを計画しており、これを通じて台湾に対する中国の主権を強調しようとしています。
これに対し、台湾(中華民国)総統の賴清徳氏は3月13日、中国の「反分裂国家法」施行20周年を前に「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」とあらためて強調しました。
また「中国は台湾に対する国外の敵対勢力である」と明言し、主権問題において妥協の余地がないことを示しました。
中国は4月1日、「海峡雷霆-2025A」と名付けた大規模軍事演習を開始しました。
この演習は賴清徳氏の発言に対する「断固たる懲罰」であると中国側は表明しましたが、同時に「中国は台湾に対する国外の敵対勢力である」ことを自ら証明する形となりました。
中国による武力統一「デビッドソンの窓」
「海峡雷霆-2025A」演習は、雷霆(雷鳴)の名とは裏腹に「雷鳴轟くも雨は少なし(威勢はいいが実行力に乏しい)」と揶揄されたものの、親中派メディアは演習を大々的に報じ、台湾海峡とインド太平洋の安定に悪影響を及ぼしている責任を賴清徳総統に転嫁し、「両岸の平和を破壊した者」「台海危機を招いた者」と非難しています。
しかし、西側諸国の客観的なメディアは中国のこうした論理を受け入れていません。
実際、賴清徳氏が総統に当選する前の2021年5月、英国の経済週刊誌エコノミストは「世界で最も危険な場所(The most dangerous place on Earth)」という衝撃的な表紙で台湾を取り上げ、中国からの深刻な脅威を報じていました。
この論調の背景には、2021年3月に当時のアメリカ軍インド太軍司令官のフィル・デビッドソン海軍大将が米上院で「中国が2027年から2035年の間に台湾を奪取する可能性がある」と警告したことがあります。
特に2027年は中国人民解放軍の建軍100周年であり、軍の近代化が完了するタイミングでもあることから、米軍は「最悪の事態に備えよ」という前提の下、この期間を「デビッドソンの窓(Davidson Window=「窓」は期間の意味)」と呼び、中国の武力侵攻に対応する準備期間として防衛整備を加速させています。
アメリカはこの期間内に台湾を「ハリネズミ」のように武装させ、防衛拠点とする構想を進めています。
台湾の深層的な脅威は「武力侵攻」ではなく「浸透」
アメリカは台湾の防衛強化を支援し続け、台湾は現在、イスラエルに次いで世界でも最も密に防空・制海兵器を配備する「要塞」となりつつあります。
しかし、ロシア革命の指導者レーニンに学ぶ中国共産党は、「要塞は内部から陥落するのが最も容易である」とのレーニンの言葉を実践し、武力による統一の準備と並行して、「隠密戦線(非軍事的浸透工作)」に長年力を注いできました。
賴清徳総統は今年3月13日に開かれた「中国の統一・浸透工作に対する市民のコンセンサスを強化する国家安全保障会議」で、以下のように警告しています。
- 中国は数十年にわたり、台湾を併合して中華民国を消滅させる野心を一日たりとも捨てたことがなく、「文攻武嚇(プロパガンダと軍事的威嚇)」を続けており、台湾社会への統一・浸透工作はますます深刻化している。
- 中国は2005年に「反分裂国家法」を制定し、武力による台湾併合を「国家任務」と明記したことに始まり、2023年6月には「台独懲罰22条」を発表。「台湾は中華人民共和国の一部である」という認識を受け入れないすべての人々を「懲罰対象」と見なしている。
- 1971年に国連総会で採択された「2758号決議」(「中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府である」と認めた決議)を歪曲し、あたかも中国が台湾に対する主権を国連により認められているかのように偽装している。
- 中国は、自由で多元的な台湾の民主制度を悪用して、暴力団、メディア、評論家、政党、現職・退役の軍人・警察官に工作を仕掛け、台湾内部での分裂、破壊、転覆活動を進めている。
- 国家安全部門と司法機関の統計によれば、2024年に中国に協力するスパイ活動で起訴された人物は計64人で、これは2021年の3倍にあたる。このうち、現役・退役の軍人が計43人(66%)を占めている。
これらの深刻な状況を踏まえ、賴清徳総統は、台湾への内政干渉を防ぐ「反浸透法」に基づき、中国を「国外の敵対勢力」と明言しました。
「17項目の戦略」で台湾の防衛意識を再建
台湾が現在直面している安全保障の脅威に対し、賴清徳総統は「17項目の対応戦略」を提示しました(詳細は付録に記載)。
17項目の対応戦略とは一言でいえば、親中派の国民党と中国共産党が共同で作り上げた、いわゆる「92年コンセンサス(※)」によって破壊された台湾の反共防衛意識を再建するためのものです。
(※1992年に中国と台湾の窓口機関が「一つの中国」原則を口頭で確認したというもの。文書もなく、台湾の民進党政権は92年コンセンサスを受け入れていない)
毛沢東の「誰が我々の敵か、誰が我々の味方か──この問題が革命の第一の問題である」(1925年12月「中国社会各階級の分析」より)という言葉からも分かる通り、敵・味方を明確に区別することは闘争の基本であり、逆に言えば「敵・味方意識」を混乱させることこそが統一工作の核心的な目的でもあります。
たとえば、「両岸(中台)は一つの中国に属する」「血を分けた同胞」「両岸は一家」「中華民族は同根同源」「我々は皆中国人だ」「中国人は中国人を撃たない」といったスローガンは、台湾と中国の間にある敵・味方の区別を意図的にぼやかし、台湾人の反共防衛意識を弱体化させる手法です。
特に2015年、当時の馬英九総統が中国の習近平国家主席とシンガポールで会談し、笑顔で杯を交わす映像が公開されたことは、長年培われてきた台湾の反共心理を大きく崩壊させました。
この間に台湾軍に対する中国の浸透工作は加速し、多くの幹部級の退役軍人が中国の統一工作に組み込まれるようになりました。
中には陸軍退役中将の高安国氏のように、台湾軍に「反乱」を呼びかけるような人物まで出現しました。
これはまさに「上梁不正、下梁歪(上が正しくなければ、下も乱れる)」という中国のことわざを体現した状況です。
そのため、賴清徳総統は軍法制度の回復と軍事裁判制度の復活を提起し、軍紀を正して士気を確保しようとしているのです。