2025.3.28 台日科技未来フォーラム講演 

現代戦争における半導体の重要性

前自衛隊陸上幕僚長 岩田 清文氏 
公開日:2025年4月10日

皆様こんにちは。ご紹介いただきました岩田と申します。

今日、ここ台北の地で、日台連携を強化する話ができる機会をいただき、大変ありがたく思います。主催者の矢板さんが先月、「お前は台湾が好きだろう、台湾に来たいだろう。だったら、軍事と半導体の話をせよ、招待してやる」ということでやってまいりました。

私は元軍人ですので、軍事的に半導体が今どういう位置づけにあるのか、3つの視点で話します。

一つは、ウクライナ戦争を通じて、いかに半導体が重要かが分かりました。2つ目は、そのウクライナ戦争を通じた半導体の争奪合戦。ロシアに半導体を渡す、渡さないという非常に熾烈な戦いが行われています。3つ目は、将来の戦い。もちろん、将来戦争が起こってはいけないんですけども。もしあるとすれば、5年後、10年後に どんな戦争が起き、その時に半導体はどういう位置づけになるのかを話します。

ウクライナ戦争の3年間を通じて、様々な兵器が活躍しました。それを支えたのが半導体です。戦争の初期はロシア軍がキーウ(キエフ)市に流れ込みました。

 その時にウクライナ軍は防衛作戦でアメリカが渡したジャベリン(携帯式対戦車ミサイルシステム)という非常に優れた兵器を使った。歩兵がミサイルを撃つと2500メートルから4000メートル飛んで行って、ロックオンした戦車を上からアタックする。こういうのが役に立ってキーウは守られました。このミサイルの中に半導体が積まれています。

戦争2年目になり、今度はウクライナ東部・南部が攻め込まれるようになると、アメリカからもらったハイマース(高機動ロケット砲システム)を使いました。数十キロ飛んで行って、サッカーコート一面を一挙に制圧するという極めて優れたロケットシステムです。この弾頭にも半導体が入っています。

ここ1年ぐらいは、ドローン対ドローンの戦争になっています。ウクライナもロシアも年間1万機以上のドローンを発射して戦闘しています。ロシアはイランからもらったドローンなんですけども、お互い無人の戦いをしています。この頭のところにも半導体が積まれています。

そして、その戦争全体を支えているのが人工衛星です。衛星を通じて映像を送り通信をしますが、ウクライナ軍が戦う上でイーロン・マスク氏の提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」が欠かせない。長距離ミサイルが飛ぶのはGPS誘導になりますので、GPS衛星が活躍している。こういった衛星がなくては、戦争ができません。この人工衛星にも半導体が積まれています。

ロシアが使っているドローンやミサイルには西側諸国の半導体が使われています。様々な西側製、インテル製ですとか、もちろん日本製もあります。西側諸国の半導体でウクライナが攻撃されていた実態がわかってきました。

 軍事や人工衛星に使っている半導体は高性能だと普通、思うかもしれません。しかし、実態は45nmから250Nmの大型の汎用性の半導体が使われています。古い戦闘機ですと90nm、 新しい戦闘機ですと45nmが使われています。人工衛星ですと、もっと高性能だと思うけれど、逆に衛星は大型で宇宙からの放射線を浴びるので、さらに大型で130から250nmというのを使っている状況です。ちなみに、皆さんお使いの携帯電話 iPhone16は3nmですので、いかにこれらが大型でどこでも手に入るというものかがわかると思います。こういう状況で西側の半導体がどんどんロシアに流れていると戦争開始当初からわかりましたので、西側諸国が揃ってロシアに対する半導体の輸出規制を強めました。量子コンピュータも含めて厳しく輸出制限をかけていますけれども、その規制の隙をぬって、ロシアに対して様々な一般の機材も含めて輸出をして助けている国があります。

北朝鮮はこれまでに弾薬を800万発ほど渡すとともに、兵士1万2千人を送り込んでいます。兵士のうち1000人は既に死んでいます。北朝鮮は半導体を作れないので、それ以外でロシアを支えています。イランは巡航ミサイル、弾道ミサイル、ドローンを提供している。今はモスクワの近くに、イランの支援でドローンを作る工場ができています。言うまでもなく、このミサイルやドローンはすべて半導体が動かしています、

 次に、問題は中国の支援です。中国は武器は渡していませんが、半導体や軍民両用の物資をたくさん渡しています。中国は戦争が始まる前の2021年、ロシアに85億円相当の半導体を渡していました。戦争が始まるとその3倍近く、260億円相当の反動体をどんどんロシアに渡して、それがウクライナの攻撃に使われています。

もちろん、西側諸国は中国に対して黙っていません。昨年6月、 G 7首脳会議において中国を名指しで非難した上で、半導体を含めて軍民両面の利用可能な物資をロシアに渡すなという強い声明を出しました。

 それにもかかわらず、中国はロシアと連携して半導体等の輸出をどんどん続けています。いまロシアに届く半導体の89%が中国から渡っています。規制をくぐり抜けて、いろいろな形でロシアに渡すよう中国とロシアが計画をしています。例えば、カザフスタンやアルメニアを通じてロシアに半導体を渡す。規制がかかると、ロシアに対する中国の支援は一旦落ちるんですが、また、違った形、違った国々を使って軍民両用の物品を渡す。このいたちごっこが続いています。

こういう状況を見ると、戦争を起こしている国へ半導体を止めるのは極めて難しいと思います。でも、半導体を作っている西側諸国が連携をして半導体を渡さない努力は続けるしかないと思っています。

最後の項目で、じゃあ今後もし戦争が起こるとしたら、どういう戦争の様相になるのかについてコメントします。

 具体的には、人と兵器が総合したフォーメーションを組む戦争になると思います。空中や海上から、地上のロボット犬も含め、AI(人工知能) チップを搭載した兵器が人の統制を受けながら自律的に戦闘する世界になると思います。アメリカなどが考えている新しい CCA プログラムというのは、人が乗った戦闘機に誘導された無人戦闘機が敵地に入り、偵察、攻撃、自爆という戦闘をする。海ででは人が乗った戦闘艦からドローンで相手に攻撃をかける無人攻撃になっていくと思います。

人工知能を使って自分で判断する兵器が、100機、200機という集団になって襲いかかる。こういう時代になると、半導体が高性能になっていかないとついていけない。新しい戦闘においては、高性能半導体の価値も非常に上がってきます。中国もそうした戦いに備えて、台湾を侵攻できる能力を全面的に作ることを目標にして、軍事力を増強しています。2027年までに完全な近代的軍隊を作るのが中国の目標です。特に、AIを非常に重視しています。

 締めくくりになりますが、将来、戦争に負けないために、そして戦争を抑止するためには次の2つが大事だと思います。これからの時代は軍事のみならず、 民間の世界においても高性能の AIの戦いになります。高性能の半導体とそれを使ったシステム化、まさに「質」の戦いが強く重視されてきます。2番目は「量」との戦い。先ほど申し上げたように、どの国でも作れる汎用型の半導体は量がどんどん出ていって、規制をしても制限できません。私たち西側諸国は負けないためにも高性能の半導体とそのシステム化が重要です。台湾のTSMCを主体に、台湾と日本とアメリカ、この3つの国がしっかり連携を図って生産化を進め、他の国よりも常に一歩先を進む。それによって戦争が抑止できるんだと思います。

私は、台湾と日本は運命共同体と思っています。私は年間で50回、60回と日本の地方を回って講演を続けています。台湾有事は起きてはいけませんが、もし仮に起こった場合、習近平国家主席が統制する権威主義国の手に台湾が渡ることは、日本にとっても絶対あってはいけないんだと強調しています。台湾は単なる隣の国ではない、日本と運命共同体なんだ、台湾がもし中国の手に渡ったら日本の国益上、極めて大きな問題なんだと。

台湾の多くの方々が言われているように、台湾は現状維持がいいんだという。その現状維持をしてくださることが、 日本の国益にもなります。この自由で、民主主義で、人権で法の支配という共通の価値観を持った日本と台湾がしっかり連携をして、第一列島線(日本から台湾、フィリピン、ボルネオ島付近までの中国に対する防衛ライン)をきちっと守っていく。これが台湾のためにもなるし、日本のためにもなる。まさにそうすることが、日本政府としてやることです。私は「日本の皆さん、日本にとっての重要な台湾の価値をわかってください」と強く言っています。台湾の問題は人ごとではなく「日本ごと」であり、自分のことと思ってしっかり考えてくれと日々言っているところです。

 半導体の話に最後戻します。日本と台湾とアメリカが高性能の半導体でしっかり連携する「半導体同盟」を作ることによって、「これじゃあ台湾に攻め込んでも中国は勝てない。侵攻はやめよう」と抑止をする。これが非常に重要だと思っています。半導体のみならず、他方面において日本と台湾が連携をさらに強くして戦争を抑止する。私も微力ですが頑張っていきますので、皆さんともに頑張りましょう。

今日はありがとうございました。